つながるコラム「絆」 vol.76 斐川町 ・ 株式会社勝部農産 勝部喜政さん

斐川地区本部

メイドイン島根の野菜「あすっこ」でやりがいを創出

勝部 喜政さん(57歳)

斐川地区本部

メイドイン島根の野菜「あすっこ」でやりがいを創出

 「あすっこ」は、ブロッコリーとビタミン菜を交配させ2003年に誕生した島根県のオリジナル野菜。苦味やクセがなく、優しい甘味が特徴です。  出雲市斐川町にある勝部農産で「あすっこ」の栽培がスタートしたのは2013年のこと。水稲育苗に使っていたビニールハウスをオフシーズンも活用しようと着手しました。発泡スチロールのトロ箱で栽培できるためハウス内の土を耕す必要がなく、収穫後はトロ箱を撤去すれば数日で育苗に切り替えられるのが「あすっこ」のトロ箱栽培の魅力の一つです。

 同社は水稲や麦、大豆を主に栽培しており、それらの作業が落ち着く冬季は機械のメンテナンスや作物の乾燥・調製が主な仕事。従業員にとっては、作物を育てるという農家としての手応えが少ない時期になるといいます。そこで、勝部さんは「メイドイン島根のブランドである『あすっこ』の栽培で新たにやりがいを創出したい」と考え、冬期の「あすっこ」栽培にチャレンジしました。 栽培開始から約10年、現在はハウスだけでなく地域の耕作放棄地なども活用して露地栽培も拡大。「露地だと冬は雪にやられ、雑草対策も大変で、始めた頃はなかなか苦労しました」と勝部さんは振り返ります。マルチ栽培の導入などの試行錯誤が実り、徐々に収穫量が安定。2023年には約5400袋(1袋130g)を出荷しました。

従業員ファーストの健康経営を目指す

 「あすっこ」の植え付けは9月中旬から下旬。水稲や大豆の収穫、麦の播種と作業が重なって従業員の負担が増えないよう、バランスの取れたスケジュールを組んでいます。作付面積も利益優先で増やさず、現在の従業員数で無理なく対応できる範囲内にとどめています。  勝部さんが目指すのは〝健康経営の農家〟。健康経営優良法人として日本健康会議の認定も受けました。「ハードな業務が続いたり残業が長くなったりしないよう配慮しています。やりがいがあると共に、健康を保て、プライベートの時間も確保できる環境でないと、今は人材の確保が困難な時代です。また、疲労は事故やケガの原因にもなり、総合的に考えるとさまざまなリスクがある。それならちゃんと帰れてしっかり休める方がいいと思います」と話しました。

取材日はちょうど「あすっこ」の収穫・調製作業の日。20代から60代まで幅広い年代の方が生き生きと働いていました。2024年の春には農大を卒業した新入社員が入るそうです。健康経営と人材確保の秘けつを勝部さんに聞いてみると、「よく質問されますが、天気の様子を見ながら無理をしないことだけですね」と笑っていました。

摘芯する頂花蕾を新しい商品に!

「あすっこ」栽培は、茎の先端にできるブロッコリー状の頂花蕾を摘心し、わき芽を「あすっこ」として出荷します。摘心した頂花蕾は、社内で分けて食べたり、やむを得ず廃棄したりすることもありました。そこで皆さんにも楽しんでもらいたいという思いとフードロス削減に貢献するため、2023年から試験的に「あすっこの天つぼみ」として、販売をスタートし広がりを期待しています。
 同社の「あすっこ」は県版農業生産工程管理(GAP)「美味しまね認証ゴールド」を取得しています。山陰のスーパーでは徐々に定着してきた「あすっこ」ですが、より親しみのある存在になるべく、地元保育園の給食用に無償での提供や、小学校の社会科見学の受け入れも進めています。勝部さんは「収穫したての『あすっこ』をその場で生で食べてもらったこともあります。甘くておいしいと喜んでくれました。子どもたちが帰ってから家庭で話題にして、『あすっこ』のファンが増えてくれれば嬉しいですね。冬から春にかけての島根の旬の味として、もっと手軽に食べていただきたいです」と話しました。地域に密着しながらこの先を見据えています。



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