つながるコラム「絆」 vol.70 海士町 ・ ムラー・フランクさん
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ムラー・フランクさん(49歳)
隠岐どうぜん地区本部
多品種野菜にニワトリとヤギ!多様性あふれるにぎやかな農園
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約600万年前の火山活動でできた島、隠岐島前の海士町(中ノ島)。その北東部に位置する宇受賀(うづか)(うづか)地区に、ムラーズファームはあります。
農薬や化学肥料を使わず、年間40〜50種類もの野菜を作っているのはドイツ人のムラー・フランクさん。移住してから約15年、もとは雑木林だった土地をコツコツと開墾し、生産力の高い農園を作り上げてきました。JAをはじめ、島内の各商店に出荷する野菜は「おいしくて長持ちする!」と評判です。
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おいしい野菜の秘密は、精魂込めてつくってきた"土"
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島の飲食店や宿の料理人から絶賛されているムラーさんの野菜は、島で唯一のホテル「Entô(エントウ)」でも使われています。その味に感動した観光客が、本土へ帰るフェリーに乗る前にわざわざ畑に立ち寄って、野菜をお土産に買って帰ることも。
なぜ野菜がおいしいの?と聞くと、「土のおかげだよ!」と胸を張るムラーさん。表面約7センチの浅い層だけトラクターで耕して、あとは畑の中に空気を入れるようにフォークを入れ、丁寧に手で耕していきます。この耕し方をすることで土の中の微生物が増えるのだそう。ムラーさんは「うちの野菜が長持ちするのは土が豊かだから。農薬や化学肥料を使わないことだけが大事なんじゃなくて、どれだけ土の面倒を見ているかが野菜の味や日持ちを左右すると思う」と話します。
飼っているニワトリは、タマゴを販売する他、鶏ふんを有機肥料として使っています。島内で生産される牛ふん堆肥も購入し、土づくりに活かしています。ただ、農薬を使わない栽培法は手間がかかるのも確かです。ムラーさんは「例えば今年の春は天候のせいか初めてナメクジが発生したので、専用の手袋をして丁寧に取り除いた。毎年色んなことが起きるけど、すべてが経験。とにかく日々勉強だね」と話します。
ファーマーにもビジネスマインドは必須。販路開拓やファン作りも積極的に
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ムラーさんは販路開拓や販売促進にも熱心です。島内ではJAや主な商店、宿、飲食店などに出荷。サンプルを送るなどしてこまめに営業し、隠岐の島町のスーパーや松江市のスーパーなど島外の販路も確保しました。また、インターネットでは、産直野菜の通販サイト「食べチョク」での販売に力を入れています。ムラーさんは「多品種の野菜を作っているのは、食べチョクで売る際に箱に詰めて見栄えが良いように。珍しい野菜も入れるとサプライズがあって良いですよね」と話します。今は毎週、定期的に買ってくれるお客様も増えてきており、応援してくれるファンが増えていると実感していると言います。
今が旬のズッキーニ。実は海士町で最初に栽培したのはムラーさんでした。移住当初、まだ島ではズッキーニを売っておらず、食べたくて自分で作ったのが始まり。するとだんだん知名度が広がり、他の生産者も栽培するようになって、今では人気野菜の一つに。
野菜を上手にPRして野菜好きが増えれば、島の食が豊かになると同時にムラーズファームのファンも増える。そんな好循環を目指して、イベントやSNSを利用した情報発信に今後も力を入れていく予定で、通販サイトも制作準備中とのことです。
隠岐の有機野菜のパイオニアでありたい。原動力はパッション
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他の生産者と助け合う"おたがいさま"は島の文化。ムラーさんも地域との繫がりを大切にしています。「農園の土地やスタッフ用のシェアハウスも地元で借りている。地域の人が農作業を手伝ってくれるのはとてもありがたい。本当にたくさん助けてもらっているから、できることで恩返しをしています」とムラーさんは話します。
仕事の充実ぶりがうかがえる一方で、とても忙しそうなムラーさん。リラックスの時間もすべて農園にあると言い、スタッフとのお喋りやBBQが良い息抜きになっています。「自分にとって農業は人生そのもの。夢見ること、食べること、考えること...生きることすべてがここに詰まっている。だから忙しくても頑張れる。原動力は、パッション(情熱)!」と笑顔を見せました。
目標は、隠岐4島で初の有機JAS認証を取得すること。認証のためには使う資材にも条件があり、コストも手間もかかりますが、これからも有機にこだわると決めています。ムラーさんは「有機栽培は大変だけど、認証されて島でブランド化していけたら希望はある!野菜以外にも、例えばヤギのミルクやチーズ、ソーセージ作りなどやりたいことはいっぱい。理想の農園までまだ途中だけど、仲間を増やして、少しずつ実現していきたい」と語りました。