つながるコラム「絆」 vol.65 出雲市・松本頼明さん
松本頼明さん(41歳)
出雲地区本部
養護学校の教員時代に抱いた思い
出雲市の就労継続支援事業所「ワークステーショントーチ」で、障がい者の方と共にしいたけを栽培する松本さん。高校時代はカヌー部に所属し国体出場を経験。日本体育大学へ進学し教員免許を取得した後、島根県内の中学校、高校で教員として働いていました。松江と出雲の養護学校で勤務した経験から、"障がいがあっても働ける道を拓きたい"と福祉事業所へ転職。安定した作業収入のため、事業所が主体となってできる仕事はないだろうかと考えていた松本さんは、元々父親がしていて興味を持っていた「しいたけ栽培」に注目。しいたけは軽量で作業も単純、農薬も使用しないため、障がい者の方にとって扱いやすい作物であったことから、事業所でも栽培ができると確信。JAにも相談し、最初は、受託していた内職の作業と並行しながら、しいたけ栽培をスタートさせました。現在はハウス3棟、年間約40,000菌床を栽培しています。
しいたけ栽培に特化した就労支援事業所を開設
事業を進める中で手応えを感じた松本さんは、「もっと、しいたけ栽培を中心に行う福祉事業所を作ってみたい」と思い、同僚の金崎幹徳さんと共に新しい事業所を設立することに。福祉事業所立ち上げの準備をするかたわら、栽培用のハウスや、利用者が使う作業所、休憩室、相談室を兼ねた建物の整備、そして、まずは2人で栽培を開始し、約1年間の準備期間を経て2021年4月に新しい就労支援事業所「ワークステーション トーチ」を誕生させました。
就労継続支援B型事業所の就労時間は1日4時間が平均的で、作業単価も低いのが現状です。そんな中、トーチでは「どんどん働いて、その分しっかりと工賃を支払う」という理念をもとに、「もっと働きたい」という利用者の希望に合った働き方を提案。利用者の作業は主に、収穫・軸切り・計量・袋詰めの他に、菌床をひっくり返す作業や、菌床を入れ替える作業など、単純ですが根気が必要となる作業が多くあります。「利用者の方がやる気を持っていて、この仕事に合う根気や体力さえあれば、続けられますし、工賃のアップにも繋げていけます」と松本さん。さらに、この先一般企業へ就職できる人材を育てることを目標に、日々利用者のモチベーションアップに寄り添っています。利用者の方が働きやすいように
「うちは農家ではなく、あくまでも福祉施設」と語る松本さん。トーチでは経費をかけてでも仕事を作り出すことを心掛けています。また、普通であればしいたけに合わせてハウスの温度を設定しますが、ここでは、利用者の方が心地良く作業できる温度に設定。「働く方を優先に環境を整えていくと、長く仕事を続けてもらえます。そして、利用者の方がそれぞれ得意なことを積み上げていき、みんなの頑張る力がひとつになった時は、他の農家の皆さんに負けないくらいの生産量に達します」と胸を張る松本さん。農家とは違った視点からの農業に邁進し続けています。
趣味だけではないカヌーでの挑戦
松本さんの趣味は何と言ってもカヌー。小学生や高校生のカヌークラブで指導したり、県立出雲農林高等学校の外部指導員としても活躍。技術指導はもちろん、艇の修理等も行なっています。2027年に関西で開かれる世界大会に出場するのが目標と意気込む一方、時々、休憩時間に近くの川で漕ぐこともあり、松本さんにとってカヌーは"本気で打ち込む競技"でありながら、"自分をリフレッシュさせる存在"としての大切な役割も果たしています。
出雲のしいたけ栽培を支える仕組みづくりにも参加
しいたけ栽培を始めてから今年で10年。「やればやるほど難しくなる」と笑いながら話す松本さんは、今年から、新たな品種にチャレンジしています。品種が違えば、また違う栽培方法の模索が始まります。しいたけの芽は菌床をひっくり返したり、水をかけたりなど様々な刺激を受けることで出てきますが、品種によってどの程度の刺激が適しているか、季節によっても温度や湿度の管理が異なるため、菌床を良い状態に保つのは難しいそう。
困った時には、所属するJAしまね出雲しいたけ部会の先輩にアドバイスをもらうことも。先輩のやり方を吸収しながら、経験を積み、出雲しいたけの発展に向けた仕組みづくりにも参加したいと考えています。近年、若い生産者が増加している中、誰もが継続して生産を行うことができるように環境を整え、次世代を担う生産者になるために松本さんの挑戦はまだまだ続きます。