つながるコラム「絆」 vol.88 松江市 ・ 神門侑花さん


神門 侑花さん(29歳)
くにびき地区本部
家庭菜園で芽生えた興味が農家経営の夢に発展へ

島根県のイチゴ産地といえば安来市ですが、実は松江市でも少数精鋭の農家によって良質なイチゴが生産されています。2023年には市内の4つの農家が「松江いちご部会」を設立。松江市玉湯町で「侑花いちご園」を経営する神門侑花さんもそのメンバーです。 神門さんは2019年に新規就農。農業にあまり縁がない子ども時代を過ごしていましたが、中学生のころにお父さんが趣味で家庭菜園を始めたことが転機に。手伝っているうちに農業に興味が湧いていったそう。神門さんは「最初はうまくいかず枯らしていたのですが、栽培方法を調べて育てたらちゃんとおいしくできたんです。正しい知識を得て実践すれば結果が出ることが面白くて、もっと知りたい!と農林高校に進学しました」と話します。 高校の研修で訪れた宮崎県の農家で果菜類の奥深さを知り、農業を仕事にしようと決意。熊本県の農業大学校に進みました。イチゴ栽培に出合ったのは授業で携わったハウス実習。大きな魅力を感じ、卒業後はふるさとでイチゴ農家になろうと決めました。
一筋縄ではいかなかった新規就農

島根に戻ってから3年間イチゴ農家で農業研修を行い、実際の農業現場で経験を積みながら就農の準備を進めていました。しかし、そこには予想外の壁が。「借りる土地がなかなか見つかりませんでした。学校を卒業したばかりで実績がなく、さらに若い女性が単身で就農するということで、オーナーさんの信用を得るのが難しかったんです」と神門さんは話します。
農業委員の紹介でなんとか土地を見つけ、栽培をスタート。初年度は気候に恵まれスムーズに進みましたが、2年目は寒波に見舞われ、研修先だった農家の師匠に相談しながら対策を打っていました。また、島根県農業技術センターからの提案で、ハウス内の温度や照度などをモニタリングできるシステムの試験運用をスタート。師匠のイチゴ農園と同時に導入し、データを共有することによって細かなアドバイスをもらえるように。神門さんは「本当に助けられました。おかげさまで今は自分一人なら生活できるぐらいの状態になっています」と当時を振り返ります。
イチゴは傷つきやすいけど可愛いお姫様

作物の中でも繊細さがトップクラスのイチゴ。葉かきや摘果によって味や色づきが大きく変動します。また、受粉するときの花粉のつき方によってデコボコになったり、色むらができたり、肥料を吸いすぎると歪な形になったりするそう。「先端が分かれてゴツゴツしているのは元気に育っている証拠。おいしいはずなんですよ。でも市場には出せないので摘果しないといけない。歪でもおいしいイチゴを育てたい〝農家の私〟、商品単価の高いイチゴで経営を安定させなければいけない〝経営者の私〟、双方の葛藤があります。でも、苦労した分だけ良く育ち、手応えがあるのがイチゴの魅力。いつも仕事を褒めてもらっているような感覚で育てています」と神門さんは話します。 イチゴは果実が柔らかくデリケートなため、収穫からパック詰めまでの一連の作業も気を使います。「手がかかるところも傷つきやすいところも、まるでお姫様みたいです」と神門さんは笑います。
人と交流し、おいしいイチゴを届けたい

現在は8.7アールのハウスで年間5.7トン/10アールの「紅ほっぺ」を生産。農地を広げたい気持ちはありますが、一人で手が届く範囲の仕事をするには今がちょうどいいと言います。「土地の形状の関係で南北ハウスにしたので均一に陽が当たり、天候によっては収穫のピークが一気に来ることも。ありがたいけど大変です。春の最盛期にはほとんど眠らずに働くこともあります」と神門さんは話します。
と そんな忙しい日々のリフレッシュになっているのが生き物観察。周辺の野山で野鳥やサンショウウオなどを見つけ撮影しています。宍道湖でのシーバス釣りも気分転換になっているそうです。
