つながるコラム「絆」 vol.87 浜田市 ・ 前田正典さん 米原勇人さん


前田正典さん(76歳)、米原勇人さん(71歳)
いわみ中央地区本部
二人で挑戦する定年後の農業

浜田市の西部、海岸から少し離れた内陸に位置する浜田市吉地町。周囲には美しい山々や緑地が広がっています。この地区に住む前田さんと米原さんは、定年までそれぞれ仕事を続けながら、家の米作りや畑などを手伝ってきました。前田さんは車のディーラーや介護施設の運転手として、米原さんは合板工場で長年勤め上げた後、空いている時間を何かに費やそうと、二人で一緒に本格的な農業に挑戦することを決意。今まで自分なりの農業はやってきたものの、商品として出荷するための農業は初めての二人。「誰かと一緒だったらやってみようという気持ちになれた」と米原さん。近所に住む気の合う二人で「あすっこ」の栽培をスタートしました。
作る人にも食べる人にもメリットが多い「あすっこ」

ブロッコリーとビタミン菜を交配させた「あすっこ」は、子どもも食べやすい島根生まれの野菜です。二人が栽培しようと思ったきっかけは、農閑期に何か栽培したいと思っていたところ、時期的にちょうど良い作物だったこと。また、虫害が少ない寒い時期の栽培であるため、被害が少なく比較的楽に育てられるのも決め手でした。出荷の際の規格も他の作物に比べて簡易で、初心者でも対応しやすいそう。「農薬を使うことがほぼないので、食べる人にとっても安心」と米原さんは話します。

年齢に負けず続けていく

年齢的に農作業が厳しくなってきていると話す二人。前田さんは昨年、夏場の暑さで熱中症になり、点滴を受けながら農作業を続けたことも。そんな厳しさの中でも農業を続ける理由は「働かなければ健康を維持できないから」と前田さん。そして米原さんは「しんどい時もあるけど、二人でやっているから責任感がある。ちょっと今回はやめておくかって投げ出すことができない」と答えます。収穫した時の達成感や近所の人にあげた時に「おいしかったよ」という声を聞くと、とても嬉しいという二人。どんなに辛くてもみんなの喜ぶ顔が、やりがいにつながっていると語ります。
地域の人たちとの交流が楽しみ

前田さんは週に2回、地域のグラウンドゴルフに参加して体を動かしているそう。また、農作業が終わった後の一杯も楽しみのひとつ。家でお酒を飲むのもいいですが、年1回のグラウンドゴルフの集まりや地域の草刈りの後にみんなで飲む時間も、地域の人たちとの交流できる場として良いリフレッシュになっているそうです。
後継者不足が一番の課題

二人は地域の防災や草刈りなど、地域活動にも積極的に関わっています。この地域の環境や景観を守るための組織「吉地保全会」の一員でもあります。前田さんは「みんながそれぞれの田んぼや畑を頑張っている。そうしないと、この地区は荒れ果ててしまう。なんとか維持していかないと」と話します。現在メンバーは9人ですが、発足当時から減少しているとのこと。この地区の未来を守るため、若い世代にも農業に携わってほしいという願いはありますが、「お米の価格は上がっているものの、肥料代や機械維持のコストも増加している」と、農業の現状を知る二人は複雑な気持ちでいます。ただ、「自分たちも親が亡くなったり、定年になったりするまでは農業をしようとは考えなかった」と話す二人。環境を整え、将来へ道筋を残していく。いつか誰かが農業を始めようと思った時、今の二人の頑張りが実を結ぶのかもしれません。
農業を通じて地域を守る

「自分たちは体力が続く限り農業を続けていきたい」と意気込む二人。「あすっこ」栽培を始めて今年で3年目になり、一通りのやり方はわかってきたそうで「余裕ができたら、今後は品質をもっと高めることにも目を向けたい」と語る米原さん。機械を駆使して作業の効率化も目指し、今年は新しい品目にも挑戦したいと語ります。「年齢を考えると無理をしないことが大切」と笑いながらも、目の前の作業に追われる日々こそが、生きていく力を生み出しているのかもしれません。
二人はこれまで通り地域活動にも取り組みながら、農業を通じて地域を守っていくことを目指しています。これから迎える吉地町の未来に向け、一筋の光を灯していく存在であり続けてほしいと願います。