つながるコラム「絆」 vol.86 安来市 ・ 高見謙一さん


高見 謙一さん(56歳)
やすぎ地区本部
イチゴ作りをつなぐためにUターン

安来市ではイチゴ作りが盛んで、「章姫(あきひめ)」「紅ほっぺ」などの品種が栽培されています。摘花によって一つの株にできる実を減らし、粒を大きく育てるのが安来のイチゴ栽培の特徴。また真っ赤に完熟してから収穫するため、甘みが濃くジューシーで食べ応えがあります。
完熟してから収穫したイチゴは日持ちがしないため、販路は島根・鳥取が中心に。安来のイチゴは山陰だから気軽に食べられる、特別な旬の幸だと言えるかもしれません。
高見さんは同市下坂田町で年間約14トンを生産するイチゴ農家。お父さんから農園を継承したのは2014年のこと。それ以前は静岡で会社員として働いていました。「うちのイチゴは甘くておいしいと評判だったので、父の代で終わらせたらもったいないと思ったんです」と高見さんは話します。当時、高校生だった高見さんの息子さんがイチゴ栽培に興味を持っていたことも後押しになり、Uターン就農を決めました。
新しい農法や技術を試し農薬を減らす

高見さんが手がける品種は「章姫」「紅ほっぺ」「よつぼし」。農園を継承したときの作付け面積は15アールほどでしたが、現在は1.8倍の27アールに。お父さんや就農した息子さんとともに家族3世代で栽培に取り組んでいます。
イチゴの収穫・出荷は11月下旬から翌年5月までと長期にわたります。「4〜5月は特に収穫量が多い時期ですが、ハウスの中が暑くてなかなかつらいんですよ」と高見さん。最盛期を終えるとすぐに育苗がスタート。9月に定植すると10月には花が咲き始めます。摘花をしつつハウス内にミツバチを放って受粉を促進。気温が下がるとミツバチが活動しにくくなるため、冬は無菌状態で衛生的に育てられた「無菌バエ」を使います。
害虫対策にも虫の力を活用。イチゴに付くハダニを食べるダニや、アブラムシの天敵の虫を使うなどして、病害虫予防の薬剤使用を減らしています。高見さんは「UVランプも設置し、うどん粉病など病気への抵抗力を高めています。父の時代よりも農薬の量はかなり減っていると思いますよ」と話しました。
ICT化で生育を管理・コントロール

技術の進化は他の面でも。日照量や気温、湿度、土の水分量や肥料濃度などをセンサーで測定し、スマホのアプリで確認。随時調整できるようにしています。イチゴの開花から収穫までの積算温度は600℃であるため、気温を把握することで収穫の時期がより細かく分かるように。イチゴは実をつけながら次々と花をつけるため、ハウス内の温度調整をしながら何度かやってくる収穫のピークをコントロールしていきます。

「便利な時代になりましたが、天気に左右されることは昔と変わりません」と高見さんは苦笑します。昨年(2024年)は8~9月の気温がとても高かったため、西日本ではイチゴの実りが1週間程度遅れており、洋菓子店などのクリスマス需要に応えられるか懸念されていました。例年は11月中〜下旬に第一陣の収穫があり、大粒のイチゴを出荷。12月上旬〜中旬の第二陣の出荷を経て、クリスマスごろにはケーキにちょうどいい小ぶりなイチゴができるそう。色づきが日照に左右されることもあり、天に祈る日々が続きます。
安来のイチゴを未来につなぐために

米のように広大な土地は必要なく、またブドウや梨などの果樹と異なり定植した年に収穫できるイチゴ。収穫期間が長くその分収入のある時期が続くこともあり、安来ではイチゴ栽培に挑戦する若い世代が増えています。ふるさとのブランドとして大々的に打ち出され、規格外の実を活用したスイーツや加工品の開発も盛ん。高見さんも「より多くの人に知っていただき、食べていただきたい」と話します。未来に向けてイチゴ栽培を持続可能なものにしていくため、気候変動に対応した高温に耐えられる品種を探したり、育苗のやり方も考えたりしていくと言います。高見さんの新しい取り組みは、息子さんたち次世代へつなぐバトンとなるでしょう。今後も挑戦が続きます。