つながるコラム「絆」 vol.85 大田市 ・吉田淳一さん


吉田 淳一さん(37歳)
石見銀山地区本部
昔から続く循環型農業

大田市の南西に位置する温泉津町井田地区。山々に囲まれたこの地域で、和牛繁殖と水稲栽培を行っている吉田さん。このあたりでは、昔から牛を飼いながら米を育てる複合経営が続いています。田んぼで収穫した稲わらを牛の餌として与え、またその牛の糞を田んぼの堆肥として利用し米を育てる。身近なものを循環させながら行う農業で、無駄のない資源の活用と低コストのメリットがあります。
吉田さんは高校卒業後、サラリーマンとして農機具の会社に就職。農家に生まれ、小さい頃から農業が身近な存在であった吉田さんは、仕事で色々な農家を訪問しているうちに、改めて農業に興味がわいてきたそう。会社を辞め本格的に農業を始める際、親戚や近所の人からは「それはいいことだ!」と応援されたと言います。小さい頃から家の手伝いをしていたため、大まかなことは身に付いていた吉田さん。親戚の家で牛の繁殖について1年間研修し、その後は認定新規就農者として独立しました。
牛の出産も1人で対応

365日休みなく作業がありますが「それにはもう慣れました」と笑う吉田さん。お産の際にも緊急時以外は基本的に1人で対応していると言います。出産を控えた母牛がいると、監視カメラで様子を見ながら過ごすそう。破水の時間から大体の出産時刻を予測し、もし産まれてしまっていた場合でも、録画映像で初乳を飲んだか、どんな風に産まれたかなどを確認。「無事に産まれた時はやっぱり安心します」と吉田さん。生後9ヶ月頃に出荷されていくまで、ストレスなく育てていきます。
のびのびと育てることがいちばん

現在、母方の実家の敷地で雌牛15頭と子牛10頭を育てている吉田さん。意識しているのは、牛をストレスなく過ごせるようにすること。「食べるだけ食べさせて、のびのびとさせています」と、出荷が近い子牛には広い敷地でわらをたっぷりと敷き、居心地を良くしています。牛同士でも必要最低限の距離を保つ必要があり、狭い牛舎で多くの牛が過ごすとストレスで発育に影響が出てしまうこともあるのだとか。
助け合える組合の仲間は強い繋がり

吉田さんが所属する「温泉津町和牛改良組合」は、現在8軒の生産者がいます。以前から良い連携が取れていて、お互いに相談し合うこともしばしば。県の共進会の際には、バスをチャーターして応援に駆けつけ、炊き出しでご馳走作りをするメンバーも。もちろん、その際には地元で留守番をしてくれる人もいて、信頼関係がしっかりと築かれています。そんなメンバーの中で最年少の吉田さん。「高齢の方のところに、分娩や手術の応援に行くこともあります。自分は3人分くらいの力で引っ張りますから(笑)」と、地域の中で協力的に関わっています。
牛肉を食べることが楽しみ
食べることが大好きだという吉田さん。特に「毎月1キロは食べています」と、和牛に関しては一般の人よりも食べる量や頻度も多いと自負しています。毎月、牛のセリやヘルパーとして手伝いに行く中央子牛市場では、会場で販売されている牛肉を必ず買って帰るそう。「まずは自分が食べて、肉の消費を増やさないと。我々に恩恵がありませんから。皆さんにも、できれば毎月1パックでも牛肉を食べてほしいです」と笑顔で語ります。
牛も米もバランス良く続けていける農業を

牛を大きく育てる方法や、美味しい米を作る方法は、もっと研究して手間を掛ければきっと見つかるはず。しかし、吉田さんは"変わらない方法を維持すること"に重きを置いています。それは、1人で複合経営を上手く回していくため。どちらか一方だけに専念することができません。
中山間地としては広い面積の6.8ヘクタールの田んぼを管理している吉田さん。新しい品種である「つきあかり」にも挑戦し、田んぼごとに品種を変えたり、田植えの時期をずらしたりすることで、年間の作業が被らないように工夫しています。近年の異常気象や増える害虫にどう対処していくかが大きな課題。また、その一方で、「牛に関しては、変わったことをしない方が一番良い」と、むやみに餌を変えたりはせず、今後も現状維持で今の方法を続けていくことを目標にしています。
吉田さんは「もちろん、牛も米も良いものを作ることを目指していますが、それには適度なバランスが必要」と話します。複雑で狭い土地が多く、なかなか効率の良い農業ができない中山間地だからこそ、2つの農業を組み合わせて、この地域なりのスタイルを保つ必要があります。「組合の仲間たちと協力し合いながら、品質の向上を図っていきたい」と、地元農業の維持や発展に貢献していく若い力に、今後も期待がかかります。