つながるコラム「絆」 vol.82 邑南町 ・ 三田誠さん
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三田 誠さん(65歳)
島根おおち地区本部
異業種参入で農業に携わり約25年
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島根県の中部にあり、広島県との県境に位置する邑南町。ここで島根県オリジナルブドウ「神紅(しんく)」を栽培している三田誠さん。平成12年に、三田さんが代表取締役を務める建設会社が農業へ参入することとなり、農業部門として有限会社はらやまを設立。これまで約25年にわたり、大粒系ブドウ「ピオーネ」や菌床椎茸などを栽培してきました。 今年の5月には、同町でブドウ栽培を行う生産者が中心となった「島根おおちぶどう部会」が結成され、ブドウ作りのベテランである三田さんが部会長に就任。「神紅」の生産拡大やブランドの確立、農家の所得向上を目指してスタートを切りました。
島根でのみ作られるブドウ「神紅」
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「神紅」の最大の魅力は強い甘み。糖度が20度以上という出荷基準があるため、お店でどれを手にとっても間違いなく甘いのだそう。「シャインマスカット」と「ベニバラード」を掛け合わせた品種で、種がなく皮ごと食べられるのも嬉しい特徴です。 三田さんが手がける「神紅」のハウスは3棟。合わせて40アールの面積に、80本の樹が植えられています。葉が青々と生い茂り、とても丁寧に手入れされている様子がうかがえます。「作りはじめて今年で3年目。今は樹を大きくしている段階で、初出荷は来年を予定しています」と三田さん。「神紅」の旬は9月頃。来年は1本の樹に100房つけるのが目標だと言います。
美しい房に仕上げる熟練の技
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栽培期間の中で、特に大変なのが形の悪い粒や傷のある粒を一つ一つハサミで切り落とす作業の摘粒(てきりゅう)。この時期はアルバイトを雇用して作業にあたっています。「粒の大きさが小指の先くらいになった頃に摘粒し、その時には収穫時期の房をイメージしながら粒の数を調整します。つまり、状態の良い粒も必要に応じてあえて落としてしまいます。そうすることで粒が大きく育ち、全体的に見た目の良い房が出来上がります。ただ、やり過ぎると隙間が目立つ房になってしまうし、もったいないからと躊躇すれば実が大きくなりません」と話す三田さん。紅色で大粒な実を目指し、いかにちょうど良く摘粒を行うか。そこはブドウ栽培の経験が豊富な三田さんの腕の見せ所です。
意外と涼しい!ハウスの秘密
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バイクが趣味の三田さん。「今年の春には新しい愛車を迎えました」と嬉しそうに話します。ツーリングが良いリフレッシュになっていますが、夏の間はバイクに乗らないそう。その理由は熱中症を避けるため。ハウスでの作業も暑いだろうと思いきや、「屋根の部分はビニールですが、サイドはネットになっています。だから風がサラサラと通り抜けて、意外と涼しいんですよ。邑南町で『神紅』を育てている農家の多くが、JAのリースハウスを利用しています。設備投資にかかる費用を抑えられてとても助かります」と話します。
県内で1番の「神紅」の産地を目指して
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「神紅」の栽培には、三田さんが長年「ピオーネ」を作ってきた経験が活きることもあれば、全く異なる知識や技術が必要なこともあるのだそう。時には県農業技術センターへ赴き、ノウハウを教わりながら試行錯誤を続けています。また、島根おおちぶどう部会に所属する生産者たちの所得向上に繋がるよう、部会長として自身の栽培知識や経験を伝えたり、邑南町や県、JAと連携を図ったりと、多方面に働きかけています。そこには三田さんのこんな想いが。「邑南町では『おーなんアグサポ隊(地域おこし協力隊)』を募り、若い世代の就農者が移住してきてくれていますが、収入が良くないと農家を続けていけなくなってしまう。この先も続けてもらうためには、良いブドウを作るのはもちろん、周りと良い関係性を築いて、それらが上手く回っていくことが大切なんです。とはいえ、部会の活動は始まったばかり。メンバーの皆さんとは、これからもっと交流を深めていきたいと思います。若い人とどんな話をしたらいいかな(笑)」とはにかむ三田さん。常に周りの農家のことも、町の農業の未来も気にかけながら、自身のブドウ作りに磨きをかけています。 三田さんは「邑南町といえば『神紅』と言われるような特産地になるといいですね。就農を考えている人に、邑南町でのブドウ栽培は安定して収益をあげられるぞ、と魅力を感じてもらえたら嬉しい」と今後の想いを語りました。邑南町での「神紅」作りには、まるで夏場のハウス内のようにキラキラとした光が差しています。