つながるコラム「絆」 vol.80 益田市 ・ 松本貴之さん
松本 貴之さん(44歳)
西いわみ地区本部
50年を超えて続くメロンの一大産地
益田市は島根県内最大のメロンの産地。県内産のアムスメロンの90%以上がこの地から出荷されています。同市の作り手たちのチャレンジが始まったのは1973年。 JAしまね益田メロン部会副部会長兼技術部長を務める松本貴之さんは「私の祖父も当時メロン栽培に着手した一人。繊細な作物で大変手がかかるため、あまり長くは続けられないだろうと思っていたようです」と語ります。 松本さんはメロン農家を継いで約20年。少しずつ作付け面積を増やしながら、初夏に収穫するアムスメロンのハウスは40アール、夏・秋作のアールスメロンは25アールとなっています。就農して10年ほど経ったころ、農業の師でもあった父親が体調を崩し、その5年後に急逝。「うちのメロン栽培の中心は父で、私はサブ的な役割をしながら学んでいるところでした。そのため技術継承が不十分で、父がいなくなってからは失敗が続き、非常に困りました」と松本さんは当時を振り返ります。そんな時に助けてくれたのがメロン部会のみなさんでした。苗の育て方や水やりのコツなどを快く教えてくれたそうです。松本さんは「土地ごとに土の質や水はけが全く違うので、教えていただいたことをどのように自分の農地で活かすのか、試行錯誤が続きました。おかげさまで今ようやく質の良いメロンが作れるようになり、楽しくなってきたところです」と話しました。
暑さと闘い、美しい網目と模様を育てる
春作のメロン栽培は真冬から始まります。1月下旬に種を蒔いて苗を育て、2月中旬から3月中旬にかけてハウスに植え付けます。4月に入り花が咲き始めるとミツバチをハウス内に放ち受粉を促進。ついた実は優良なものを1つの苗につき2つだけ残して摘果します。開花時期から25日ほど経つと実が太り、美しい網目模様に。 ハウス内は高温多湿になりまるでサウナ。実を大きく育てる時期の湿度はなんと90%以上。汗だくになりながら作業をします。 朝は高湿度の環境にし、昼前から徐々にハウス内に風を通して実を乾燥させます。これを連日繰り返すことにより、メロンの肌に美しく細かい網目が広がっていきます。また、果肉も適度に柔らかくジューシーになり、濃厚な甘さになっていくそう。 「やるなら一番綺麗なメロンを作りたいんです」と松本さん。その努力が実り、昨年、毎年メロン部会で行う反収あたりの成績が最も優秀な生産者ぶ贈られる優績者表彰で、部会初となる単年度における3部門(アムスメロン、夏作・秋作アールスメロン)全て受賞するという栄誉に輝きました。今年の出来を聞いてみると、「気温が急に上がり夜でも暖かく、雨も多い。昨年よりも網目が入りにくい年になりそうです。とはいえ妥協はしたくないので、できる限り綺麗なメロンを仕上げようと励んでいます」と話しました。
新しい挑戦を続け、メロン産地を未来につなげる
20年かけ、高く評価される良質なメロンを作れるようになった松本さん。「農家としてはまだ若手と言われますが、これからは育成に力を入れたいです。50年続いた益田のメロンが100周年を目指して持続していくため、次の世代に技術を伝えなければいけません」と松本さんは話します。 明け方から日没後まで作業があり、ハウス内は暑く、湿度コントロールや実の状態の見極めなど繊細さも求められるのがメロン栽培。「メロンができれば大抵の作物はできる」といわれるほど難しい作物です。新規参入を促進するにはハードルを下げることも大切になってきます。松本さんは「少しでも負担が軽減できれば、若い人も挑戦しやすくなるはず。部会に参加している農家は20年前は120軒ぐらいありましたが、今は半分近くまで減りました。地域の農家が生き残っていくためには、新しい技術や機器を試し良いものをシェアしていくことも大切です」と話しました。 松本さんは今年からアプリで管理できる自動給水システムを導入。試験的に運用し、手応えがあれば他の農家にも紹介したいと考えています。若い世代を育て、持続可能な農業の環境を整え、仲間と手を取り合って産地を支える。そんな志を胸に、益田のメロンを未来に繋げる取り組みをスタートさせています。