つながるコラム「絆」 vol.79 出雲市 ・ 安達京兵さん
安達 京兵さん(40歳)
出雲地区本部
父の作るおいしいブドウを残したい
出雲市の西部、のどかな田園風景に数多くのビニールハウスが建ち並ぶ光景が広がっています。ハウスで栽培されているのは「デラウェア」。島根県はブドウのハウス加温栽培面積で全国一を誇り、中でも出雲地区は県内出荷量の約7割を占めています。 そんなブドウ農家の一人として汗を流している安達京兵さん。祖父が始めたブドウ栽培を継ぎ、一昨年の12月に法人化。現在80アールという大規模な面積のハウスを、家族5人で管理しています。もともとは、飲食店勤務やバスの運転手をしていた安達さんでしたが、父親の作業を手伝ううちに跡を継ぐことを決意。安達さんは「父が今まで作ってきたおいしいぶどうを、この代で終わらせるのが嫌だった」と語ります。他の兄弟はすでにそれぞれ自分の目指す道を進んでいたこともあり、安達さんが家業を守っていくことになりました。
継承であっても、学びを忘れない
家業を継ぐ形で農業を始めた安達さんですが、最初の1年は出雲市が主催するアグリビジネススクールのブドウコースで基本的な知識を学び、その後は島根県立農林大学校の短期コースに1年間通いました。作業的な部分は父親から直接教わることができますが、一般的な栽培技術を一から習得するため学校に通ったそう。今までやってきた父親のやり方を軸にしつつも、「今後は自分の考えも取り入れながら、JAの担当者や県の普及員と一緒に新たな方法を模索していきたい」と語ります。
品質にこだわったブドウを作るために
全国的に早い時期の4月末〜5月初めに初出荷を合わせるため、ハウスでは温度調節ができる「二重被覆」を行っています。2枚の幕に覆われているハウスですが、最近は気温の変化が激しく、状況を見ながら、幕を上げ下ろしする必要があります。また、ブドウの芽を休ませるために「低温期間」も一定の期間必要となりますが、温暖化により低温を保つことも難しい状況に。そういった対策に適した薬もありますが、できるだけ使用せずに安心で安全なブドウを作り続けたいという安達さん。日頃から常に天気予報をチェックし、天候には敏感になりながら作業を進めています。「お昼ごはんを食べていても、日が当たってきたら食べるのを中断して、急いでハウスに行って幕を開けています」と苦笑い。品質にこだわって良いものを作りたいという思いがあるからこそ、大切な時期は休みなくブドウに向き合っています。
1年の最大の楽しみは自然の中で
プライベートでは小学生の男の子のお父さん。特に繁忙期の今は休みがなく、なかなか子どもと遊ぶ時間も確保できない日々が続きます。そんな安達家では、収穫が終わった秋の時期にキャンプに行くことが恒例。「子どもはもちろん、僕も妻も楽しみにしています。おすすめは三瓶山。星空の下で飲むお酒は最高です」と笑う安達さん。家族で過ごすとっておきの時間が、1年の疲れを癒し、最高の思い出を作り上げています。
島根県を「デラウェア」の一大産地として成長させる
現在、島根県の「デラウェア」生産量は全国で4番目。ただ、全体の生産量も減ってきている中、今後どうやってその量を維持していくかが課題となっています。「島根県はハウス栽培が一般的なので、どこよりも早い時期に初出荷できることが強み。ハウス栽培ができる環境が整っているこの島根県が「デラウェア」の産地として残っていくためにも、みんなで支え合っていきたい」と語る安達さん。高齢などを理由に辞めていく農家がいたとしても、ハウスを再利用することで設備投資の金額も少なく、新規就農しやすい環境が整っています。また、ある程度は栽培方法がマニュアル化されているので、初心者でも始められるハードルは低いのかもしれません。島根県が「デラウェア」の一大産地となるためにも、今後もブドウ農家が増えていくことが期待されています。
安達さんは、紫色に輝く「デラウェア」をこれからもずっと残していくという想いと、「出雲の特産品」として多くの人たちに届けたいという想いで育て続けています。