つながるコラム「絆」 vol.78 斐川町 ・ 常松 信光さん

斐川地区本部

日本で一番認知されている会社に

常松 信光さん(59歳)

斐川地区本部

中国地方随一の野菜苗生産地・斐川

出雲市斐川町は広大な農地が広がり、四季を通じて多様な作物が作られています。斐川町は野菜苗生産においてその歴史は永く、山陰両県はもちろん、広島県など山陽方面の取引先からも注文があり、中国地方の農業や園芸を支える大きな柱となっています。

そんな中で、常松さん農園は代々養豚などを営んでいましたが、平成元年に常松さんのお父さんが野菜苗生産を始めました。現在は「常松種苗」としてJAしまね斐川野菜苗部会から依頼を受けて、キュウリ・スイカ・トマト・ピーマン・ナスなどの接木苗・実生苗を生産。春苗は約10万本、秋苗のタマネギは約300万本出荷しています。 春苗の準備作業は12月下旬頃から始まります。取材をした3月中旬は、4月に出荷するキュウリの苗の接木作業のピーク。病害虫に強く健康な台木に一つ一つ穂木を挿しこんでいく作業は集中力を要し、女性を中心としたスタッフが丁寧に仕上げていきます。その中には農業を学ぶ学生さんの姿も。

常松さんは「今時は農業に関心を持つ若い人は少ないですよね。せっかく志を抱いてくれたのなら応援したい」と話し、地元出身者などをアルバイトとして雇い、繁忙期を支えてもらいつつ、いろいろな経験をしてもらっています。酪農など専門分野が違う学生も来ますが、ここで学んだことはきっと何かの役に立つはずと確信しています。島根から県外の専門学校などに進学した人が、学業の合間に帰省して常松さんの元へ学びに訪れることもあると言います。将来的には地域の担い手不足解消の一助になる可能性も。未来の日本の農業を支える若い"苗"の育成にも力を入れています。

一日たりとも気が抜けない春苗の栽培

春苗の多くは、接ぎ木をしてポットに植えてから3~4週間程度で出荷します。栽培期間は長くありませんが、出荷日にちょうどいい状態に仕上げるためには繊細なコントロールが必要です。常松さんとスタッフの皆さんは一日中ビニールハウス内を歩き回り、生育状態を細かくチェック。苗の顔色を見て水やりを調整し、茎の太さを確認し、葉が茂って苗同士が接触しそうになればポット同士の間隔を開けるなど、赤ん坊の世話をするように丁寧にケアを続けます。

春苗は気温が高くなると急激に育ち、ひょろひょろと頼りない苗になってしまいます。「冷え込みに耐えながらじわじわと成長することで、太く強い苗になるようです」と常松さん。気温が上がりすぎる時はハウスに風を入れて調整します。苗にとってはぬくぬくと甘やかさない環境がベストとはいえ、朝晩の霜は大敵。4月中旬頃まで油断できないため、状況を見ながら電熱線で温度調整を行います。ハウスの見回りは夜間にも。常松さんは「この時期は本当に休む暇がない!この忙しさは年明けからゴールデンウィーク明け頃まで続きますよ」と苦笑い。作業をしながら好きな音楽を聴くことが心の癒やしになっているそうです。

仲間や地域の人と協力し、喜ばれる農業を

常松さんは「一方通行の仕事はしたくないんです。生産者の中、業者さん、そこへ来るお客さんなどの声を聞き、対話をしながら困りごとを解決し、一緒に良いものを作っていくのが理想。地域の異業種の方とも協力していきたいです。自分の利益ばかり考えていたら発展はありませんからね」と話します。他の地域と同様にさまざまな課題がある斐川の農業ですが、常松さんは仲間と手を携えて未来を見据えています。



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