つながるコラム「絆」 vol.72 江津市桜江町 ・ 岩﨑巌さん

島根おおち地区本部

家族や友人の「おいしい」が何よりの手応え

岩﨑 巌さん(76歳)

島根おおち地区本部

水量豊かな江の川の恵みで続ける農業

島根県の中央に位置する江津市桜江町。岩﨑巌さんは江の川沿いの田んぼで米作りをしています。出身は浜田市金城町。結婚を機に1972年から桜江町に移り住み、大工として働きながら兼業で農業を続けてきました。
現在は3ヘクタールほどの田んぼを管理。その一部は、離農した周辺の住民から借り受けている農地です。「私がここへ来た当時は、このあたりに20~30人は農業に従事する人がいました。どんどん辞めていって、今は私だけ。十数年前から圃場整備が進んだこともあり、少しずつ田んぼを預かるようになりました」と岩﨑さん。高齢になり農業ができなくなっても農地を手放したくない、耕作放棄地にして地域を荒廃させたくないという地域の人たちの思いを尊重しています。

付加価値の高い「石見高原ハーブ米 きぬむすめ」への転換

長年「コシヒカリ」を作ってきた岩﨑さんですが、温暖化の影響で徐々に登熟期(稲穂が出て種子が成長する時期)の気温が高くなり、高温障害が起こるように。桜江町は標高が低いため高温になりやすく、水温が下がりにくい場所にあるという条件下にあります。
高温障害の影響で品質が低下し等級も下がってしまいます。二等米が増え思い悩んでいたところ、JAが勧めたのが高温に強い「きぬむすめ」と「つや姫」。3年前からは付加価値の高い特別栽培米「石見高原ハーブ米 きぬむすめ」の栽培をスタートしました。
「石見高原ハーブ米 きぬむすめ」は農閑期の田んぼにレッドクローバー(またはクリムゾンクローバー)を植え、緑肥としてすき込むことで栄養豊富な土を作ります。化学肥料は使わず有機質肥料のみで栽培し、農薬も慣行の5割以下に。環境に優しいブランド米です。主に関東・関西のこだわり米を扱う米穀販売店で取り扱われています。

稲刈りの直後から始まる次の米作り

クローバーの種をまくのは稲刈りの後の11月頃。乾いた土でなければ芽吹かないため、水分がしっかり抜けていることを確認して作業を始めます。芽吹いて田んぼの一面に緑が広がるのは4月上旬。花が咲く前に土にすき込み5月下旬から稲を植えていきます。岩﨑さんは「クローバーは年を重ねるほどにしっかり生えるようになります。今ちょうど勢いが出てきた頃ですね」と話します。以前の農法よりひと手間もふた手間もかかり、県の定めたGAP(生産工程管理基準)に基づき生産されていることを認証する「美味しまね認証」のために管理記録をつけ、監査を受けるなどの業務も増えましたが、特に苦労が増えたとは感じていないそうです。「収穫も米の乾燥などの処理も全て自分一人でやっているので自由。面白いですよ」と愉快そうに話してくれました。

家族や友人の「おいしい」が何よりの手応え

数年前まで現役の大工だった岩﨑さん。職人気質の几帳面さは農業でも発揮され、農機具類の手入れや整理整頓に抜かりはありません。「美味しまね認証」の監査では作業小屋などの環境整備もチェックされますが、隅々まで整えられているため驚かれるそうです。大工のスキルを活かし、細々とした道具を納める棚や台を手作り。「きれいにしていると自分が気持ちいいから」と笑います。
桜江町の米作りをめぐる環境は刻々と変化しています。近年は下水整備が進んだことで江の川の水質が改善されました。「田んぼに引く水もきれいになり、鮎も増えているようです」と岩﨑さん。その一方で、前述の高温障害や豪雨災害の増加など温暖化の影響も。一昨年は江の川が氾濫し、自宅と作業小屋近くまで水が押し寄せてきました。水没を逃れるため、コンバインなどの農機具類を移動させなければならなかったそうです。
日々の楽しみはグラウンドゴルフ。地元の金城町に足を伸ばし、早朝から昔馴染みの友人たちと一緒にワイワイとプレイします。終わってからのランチタイムもリフレッシュできるひとときだそうです。

取材した日は稲刈りが間近に迫っている頃で、岩﨑さんにとって一年で一番忙しく、また手応えを感じる時期。新米は県外にいるお子さんたちに送り、同級生やグラウンドゴルフ仲間らにも分けるそうです。岩﨑さんは「同じ時期の新米でも買ったものと全然味が違う、うちの米が一番おいしいと言ってもらえるのが嬉しいですね。大変なことも多いですが、米作りが好きなんですよ。体が動く限りは続けたいです」と話しました。



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