つながるコラム「絆」 vol.69 大田市温泉津町 ・ 殿山正記さん
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殿山 正記さん(55歳)
石見銀山地区本部
就農バスツアーがきっかけでメロン農家に
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大田市温泉津町井田地区。山間部にあるのどかなこの地域は、知る人ぞ知る「ゆのつメロン」の生産地です。この地区で春・秋と1年に2回のメロン栽培を行っている殿山さん。10年前、出身地の神奈川県で会社員として働いていた際に、妻の裕子さんと「このまま会社員として働くのではなく、そろそろ次のステップに進もうか。できれば2人で一緒にできる仕事がいいね」と話していました。ちょうどその頃、立ち寄った東京・銀座(当時)にある島根県のアンテナショップで、東京と大阪を発着とする島根県への就農相談バスツアーのことを知ります。「自分でメロンを作ることができるなんて」と興味を持った殿山さん夫妻。バスツアーに参加し現地を見学した際に、研修場所や補助金など新規就農に関する行政や地域の支援が手厚かったこと、そして地元の人が歓迎してくれていることを実感。2013年に大田市へ移住しメロン栽培の研修を始めました。
メロンのトロ箱栽培
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ここ温泉津町井田地区では、トロ箱栽培という方法でメロンを育てています。トロ箱とは、漁業用に使用する発泡スチロールのこと。少量の土が入ったトロ箱に苗を定植させ、チューブで栄養入りの水分を与えながら育てていきます。殿山さんが栽培しているのは、香り豊かで甘みがたっぷりの「アムスメロン」。この品種は木や実が弱いため病気にもなりやすく、他の品種より一層気を遣いながら育てる必要があるそう。殿山さんはここ、2、3年でやっと感覚が掴めてきたそうですが、一筋縄ではいかない大変さも実感しています。
また、近年は高齢化に伴い農家は減少、さらに、悪天候なども影響して安定供給の難しさは課題の一つです。それでも殿山さんがずっと続けられているのは、メロン栽培が「おもしろい」から。需要と供給のバランスや栽培管理など、目の前の課題に立ち向かいながらも前向きに取り組んでいます。
都会地にはほとんど出回らない幻のメロン
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「アムスメロン」は出荷日から3~4日で柔らかく食べ頃になります。そのため、関東・関西への輸送には向いておらず、ほとんどが中国地方の市場への出荷や直接配達される贈答用として取り扱われています。毎年、注文受付を始めると、都会に住む子どもに送るという人や、地元のメロンを楽しみに待っている人たちから問い合わせが多く寄せられ、注文数に追いつかないこともあるほどの人気ぶり。
しかし市場では、ネット系のマスク(アールス)メロンに比べ、どうしても価格を低くつけられてしまう傾向があるといいます。「一般的なメロンのイメージであるネット系に負けないくらい、ここのメロンは甘い」と胸を張ってアピールする殿山さん。さらに、所属している温泉津町施設園芸組合では、安心・安全な農産物を証明する県版GAP「美味しまね認証」を取得。「ゆのつメロン」の価値を上げていくことを目指しています。
猫との時間が癒し
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殿山さんにとって、家で飼っている猫たちと戯れる時間が何よりの癒し。もともと、保護猫だった2匹を引き取って飼い始め、今では5匹に。「2匹だった時は、車で神奈川の実家に連れて帰ったり、旅行にも出掛けていましたが、5匹だとそうもいかず・・・。最近はまったく遠出ができません」と笑いながら語る殿山さん。数年前に購入した家で、のびのびと猫たちとの暮らしを楽しんでいます。
大切な地域を守りたい気持ち
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移住を決めた理由の一つでもあるのが「井田地区の人のあたたかさ」。殿山さんの人柄もあって今ではすっかり地域に溶け込み、農業のことはもちろん、その他のことも気軽に教えてもらえる大切な存在です。その代わり、地域内でも若い方である殿山さんは、積極的に草刈りなどに参加し、お互い助け合える良い関係性が築かれているそう。 また、妻の裕子さんは農業の傍ら地域タクシーや食堂、地域の農産品の商品開発などに関わり、地域活性化にも取り組んでいます。
ゆのつメロンのおいしさを知ってもらいたい
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現在管理しているハウスは7棟。夫妻で作業するのには手一杯で、殿山さんは「あとは品質を上げていくことに力を入れたい」と話します。今後は、自分たちや地域の農家が存続していくためにも、「ゆのつメロン」の価値を上げ、価格を向上させていくことが目標だと意気込んでいます。
「まだ知名度が低いこの『ゆのつメロン』を、もっと多くの人に知ってもらいたい」と、情報発信の方法やブランド化への構想も広げていきたい考えも持っています。「おそらく、島根でも『ゆのつメロン』を知っている人は少ないと思います。寒暖差が大きいこの井田地区で、手間暇かけて丁寧に育てられたメロンは、甘みが凝縮されておいしいんです!」と、自信を持っておすすめする殿山さん。今後の新たな展開にも注目です。