つながるコラム「絆」 vol.63 安来市吉佐町・ 高橋正行さん
高橋正行さん(72歳)
やすぎ地区本部
仕事と並行しながら農業を
鳥取県に隣接し、周囲を山々に囲まれた安来市吉佐町。農家に生まれ、幼い頃から農業を手伝っていた高橋さん。高校卒業後は旧国鉄(現JR)に入社し、転勤で西日本各地の駅を移動しながら、運転や旅行販売など多岐に渡る仕事に携わっていました。仕事をしながら時間がある時には農業をする生活を続け、定年退職後に農業一本の道へ。現在は、高橋さん夫妻と息子さん夫妻の4人で、先代から受け継いでいる梨やぶどうをはじめ、柑橘類、びわ、プラムなどの果樹、米や野菜など多種多様な品目を栽培しています。
多種多様な品目を生産
主に果樹栽培に力を入れている高橋さん。植えてから長年かけてやっと収穫できる果樹ですが、特に梨は年数が増すことで、中の芯が小さく、きめ細かい肉質になり美味しくなるのだそう。良い状態で収穫するための見極めが難しく、剪定や肥料など、知識と感覚をもとに判断しながら作業を進めています。 また、通年作物を出荷できるようにと、品目を工夫しながら生産。さらにポン菓子やドライフルーツといった加工品も手掛けています。「自分が食べてみたいものを作るし、せっかく作るなら"楽しく、美味しく"がいいでしょ?」と笑いながら語る高橋さん。種類が多いほど忙しさも増しますが、新たな発見があることで楽しみながら農業を行っています。
希少な天然物のしめ縄づくり
高橋さんのもうひとつの代表的な仕事が、お正月用の「しめ縄づくり」。地域や家庭によって多様な形や大きさがあるしめ縄は、玄関締めや車用、神棚用など用途によってもそれぞれ結び方が異なります。また、地元や隣の地域の神社のしめ縄も作っている高橋さん。稲わらや橙(だいだい)は自分たちで生産し、ゆずり葉や裏白といった飾りもすべて天然の物を使用しています。最近では、すべての材料が天然であるしめ縄は希少で、さらに作り手も年々減少している中、昔ながらの手法を絶やさぬよう守り続けています。
しめ縄づくりは力仕事
しめ縄に使うのは「もち米」の稲わら。わら自体が柔らかく粘りがあるため、しめ縄に適しています。8月のお盆明け頃、まだ青々とした状態の稲を刈り取り、火力乾燥させます。そうすることで、美しい青色と良い香りが残るのだそう。その後は、手で稲のハカマを削ぎ落とし体裁を整え、機械で稲を柔らかくしてから縄を結び始めます。このように、しめ縄作りは実際に結い始めるまでの準備作業が多く、非常に手間を要します。
それに加え、手でわらをねじり合わせながら綯う(なう)作業は、手のひらや指が擦り切れ、油分を失い、皮が薄くなる重労働。「しめ縄づくりの期間は、お茶が入ったコップを触るだけでもしみて、つい手を引っ込めてしまう」と語る高橋さん。高橋さん家族が苦労して行っているこれらの作業があるからこそ、凛とした立派な正月飾りが作り上げられています。趣味でも仕事でも多彩な才能を発揮
興味があれば何でもやってみるという高橋さん。プライベートでもその多才ぶりが伺えます。趣味の魚釣りは、一級小型船舶操縦士免許を保有し、自分の船を何艘も持つほどの本格派。気象条件次第では隠岐に出掛けることもあるそう。また、農作物の被害対策のために始めたイノシシ駆除も免許を取得し、罠を仕掛けて捕獲。「釣った魚やイノシシは自分でさばいて、真空パックで冷凍しておきます」と、ほぼ自給自足で生活が成り立ってしまうほどです。 また、若い頃にはコンピューターを自作したことも。「地球の裏側の人と無線で会話もしていました」と、多くの無線機や機材が並ぶ趣味の部屋で自分の時間を楽しんでいます。「自分で作りたい」という気持ちを常に持ち続ける高橋さんは、農作業で使用する機械も効率良く作業ができるように改良。あらゆる場面で、ひらめきと器用さが発揮されています。
次世代にうまく引き継ぐことが目標
現在家族で農業を営む高橋さん。「この仕事を次の世代、さらにまた次の世代へと上手く引き継げたら」と、代々受け継ぐ農業をできるだけ続けてほしいという想いを持ちながら、お孫さんにも農作業やしめ縄づくりを教えています。「将来、本人がやりたがるかわかりませんけど」と言いながらも、昨年小学生のお孫さんがしめ縄を上手に作ったことを笑顔で話します。自分自身もそうだったように、小さい頃から体験することで、農業の楽しさや大切さを感じてほしいと願っています。
「しめ縄も毎年お客さんから『作ってごせ』と言われとるけん辞められん。体が元気なうちは、続けていきたい」と意気込みを語る高橋さん。色々なことに挑戦し、家族みんなで楽しく農業を続けていく姿が印象的でした。