つながるコラム「絆」 vol.58 出雲市斐川町・江⻆典広さん 伊藤節夫さん

斐川地区本部

地域農業で栽培技術を未来につなぐ

江⻆典広さん(71歳) 伊藤節夫さん(74歳)

斐川地区本部

県内外で評価される〝斐川の玉ねぎ〟

広大な田畑が広がる平野に築地松の家が点在し、昔ながらの風景が残る出雲市斐川町。斐伊川の流れがもたらした肥沃な土壌が広がる島根県内有数の穀倉地です。玉ねぎは水田裏作でも栽培できる品目として昭和50年代から普及。かつては乾燥のための吊り小屋があちらこちらに見られました。強い風が吹く斐川平野特有の環境で乾燥させた玉ねぎは、美しい赤銅色で球の締まりが良く、奥深い甘味があるのが特徴。手磨き調製によって規格が統一されている点でも評価され、県内はもちろん、広島や大阪といった県外の市場でもニーズが高くブランド野菜として扱われています。

地域農業で栽培技術を未来につなぐ

農事組合法人上直江ファームは、土地利用型農業経営を目指し平成26年に設立。水田転作として「七宝早生」「ターザン」など JA推奨品種を中心に栽培しています。玉ねぎは重量野菜で収穫や乾燥の作業の負担が大きく、近年は高齢化や担い手不足なども背景となり、個人経営の農家では生産のハードルが上がっています。作付け面積はピーク時の半分以下に。そんな中で、上直江ファームは地域農業の法人化によって斐川で培われてきた技術を継承し、栽培を継続。生産拡大に取り組んでいます。

地域の農を支えてきた人の縁

「玉ねぎ栽培を続けられたのは、組合のベースに地域の繋がりがあるから」と話すのは組合長の江⻆さん。「昔から助け合いが当たり前の土地柄です。これは自慢できること!」と笑顔をみせます。収穫期には組合員の家族が集合。普段は会社勤めなどをしている若い世代も参加し、賑やかに作業をしているそうです。近年は人数が減りつつありますが、多いときは30〜40人も集まっていたとか。6月には泥おとし、9月末には収穫祭も。「コロナ禍以前は直会もやっていました。みんなで飲み食いしながらワイワイと騒ぐのが楽しいんですよ。状況が落ち着いたらまた集まって語り合いたい」と話します。

課題解決に向けて奮闘

直面している課題は高齢化と担い手不足。JAと連携しながら最新機器を取り入れ、課題解決に取り組んでいます。例えば、これまでの収穫は歩行型の機器を使って2条ずつ掘り上げていましたが、今年から4条同時に掘り上げ同時に葉切りもできる乗用タイプの機器をJAが導入しました。圃場を徒歩で往復しなくて済むため体力的な負担も軽減。高齢の組合員でも少人数で効率よく収穫できるようになります。

機械化と技術の継承で生産拡大を目指す

近年はGPS搭載で自動運転できるトラクターや防除機を導入し、ドローンを使った生育診断や農薬・肥料散布といったスマート農業への取り組みも検討中。機械化体系の構築で解決できることがある一方、「機械で代替できないこともあります。土や作物、天候の微細な変化を読み取って対応していくスキルはベテラン農家ならではのもの」と江⻆さん。担い手不足の今、継承が難しくなっているそうです。特産部長の伊藤さんは「若い世代にIT化などを任せながら時代の流れに乗り、大切なことも伝え、うまくバトンタッチできたら」と話します。

築いてきた基盤をもとに更なる生産拡大へ

今年は北海道の不作の影響で玉ねぎの価格が全国的に上昇。上直江ファームでは、食卓のニーズに応えながら更なる生産拡大を目指しています。また、今年は広域調製保管施設が斐川町内に建設され、県内産の玉ねぎが一括して調製・出荷されるようになります。江⻆さんは「様々な困難がある中で生産面積を維持できたことは私たちの誇り。地域で基盤を作ってきた結果として、規模を広げるための下地はできている」と、島根の玉ねぎブランドの新たなスタートを前に、笑顔を見せてくれました。



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