つながるコラム「絆」 vol.54 津和野町・竹内和善さん
竹内和善さん(43才)
西いわみ地区本部
日原で始まった山菜栽培、継承と発展のために
島根県の最西部、津和野町に竹内さんのタラの芽畑はあります。竹内さんは、県外の専門学校を卒業後、県内の育苗センターに12年勤務しますが、祖父の代から榊農家だったこともあり、以前から関心のあった山菜作りにチャレンジするため就農しました。「祖父が残してくれた榊栽培の基盤があったから決心できた」と振り返ります。そんな竹内さんは、現在34年の歴史がある日原タラの芽生産組合の組合長も務めます。当初この辺りでは、農家の高齢化や後継者不足などの課題がありましたが、中山間地域の特性が活かせることや農閑期の冬栽培ができることなどからタラの芽栽培に着目し、組合を立ち上げ県内で最初にタラの芽栽培を始められたそうです。現在、組合員は28人。U・Iターン者も加わり、組合員も若返るなど、次世代の育成にもつながっています。
タラの木栽培は、雨とトゲに要注意
タラの芽作りは2月の苗の堀上から始まります。5月に苗木を畑に定植、肥料を散布します。梅雨が近づくと注意が必要です。「タラの木は、水に弱く排水性のよい圃場づくりがとても大切。近年ではゲリラ豪雨にも気を使う」と竹内さん。タラの木が冠水しないよう管理を徹底します。夏になると木には、鮮やかな緑の葉が茂ります。この時期は、芽に栄養を蓄えるため日当たりのよいところに移動させます。
しかし葉にはトゲがあるため移動作業は集中力が必要です。秋にはタラの木が2メートルほどに成長。その後落葉し12月になると伐採します。幹にも鋭いトゲが無数にあり、厚手の手袋を重ねて木を運び、積み込む際にも布を巻くなど、細心の注意を払いトゲから身を守ります。九州を中心に出荷
伐採したタラの木は、自宅の作業場で10センチほどに切り「駒木」を作ります。駒木はケースに並べ、 ビニールハウスへ移します。ハウスの中には、ベンチと呼ばれる育成用の棚があり、ビニールなどで幾重にも囲いタラの芽の成長に最適な環境づくりをします。この時の温度管理によって、タラの芽は約30日で出荷できるまでに成長します。1月中旬から4月まで絶え間なく出荷できるようベンチごとに育成時期をずらす工夫もしています。
成長したタラの芽は、芽切り用のハサミで収穫し、50グラムでパック詰めし、県外をはじめ、JAや産直などへ出荷しています。県外では、名古屋から九州まで出荷しており、そのうちの約50%は九州地方に出荷されています。食農教育にも一役
地元の小中学校を通じて子どもたちに、山菜を知ってもらうための活動もしています。小学校では、毎年3月の給食に山菜を提供しています。またもっとタラの芽を知ってもらおうと「栽培キット」の提供も考えています。自生しているものと比べ、苦みも少なく食べやすいが、子どもは苦みに敏感なので、苦みが和らぐよう、栄養士に調理を工夫してもらっています。また、タラの芽についてより理解してもらおうと、実際に竹内さんが子ども達に栽培方法など説明しています。ほかにも、中学校の修学旅行では、生徒が県外で地元の農産物などを知ってもらいながら販売体験を行うプログラムで、タラの芽味噌を提供したこともありました。竹内さんは子どもたちに地元で農業をしてもらうには、どんどん魅力を伝えていくことが一番大切だと話します。
気を張りすぎず、好きなことも楽しみながら
竹内さんは、マラソンや駅伝のテレビ観戦が好きとのこと。それもそのはず。中学時代から専門学校まで長距離走をされていたのです。また浜田-益田間で行われる「しおかぜ駅伝」にも町代表で走ったり、鹿児島の指宿のマラソン大会に参加したりするほどでした。ただ今は忙しくて走れていないとのこと。他にも「ゲームやマンガも大好きで、アニメは劇場に観に行くほど。また子どもと過ごす時間が楽しい」と、満面の笑みで話します。
みんなで産地創生を。そして地産地消を。
竹内さんは、島根県の産地創生事業も活用しています。「農家、県や町、JAみんなが一緒になって、産地をつくることが大切」と話します。まずは地元の人に津和野が山菜の町であることを知って欲しい。そのために給食へ提供したり地元の産業と連携したりするなど積極的に取り組みたいと考えています。最近ではSNSなどを活用し山菜の美味しい食べ方の情報も発信しています。ユーチューブチャンネル「山菜万菜(さんさいばんざい)」を組合が制作し、JAと津和野町が協力。地元イタリア料理店のシェフに、材料、レシピを紹介してもらい番組内で竹内さんも出演しています。竹内さんは、新たにふきのとうの栽培にも挑戦するなど「山菜の町 津和野」づくりのため、前を見据え歩み続けます。