つながるコラム「絆」 vol.48 川本町 森脇 淳宏さん

島根おおち地区本部

川本が町全体で取り組む「ピーマン大作戦」

森脇 淳宏さん(74才)

島根おおち地区本部

早期退職して本気で農業を

島根県の中央に位置する川本町は、周囲を山々に囲まれたのどかな風景が広がる地域です。森脇さんは、55歳の時に約30年勤めた川本町役場を早期退職し、実家の農業を継ぎました。「農業を始めるなら早い方がやりがいも感じられ長く継続できる。父が元気なうちに習いながらやろう」と農業に向き合いたいという気持ちが強かったと当時を振り返ります。
「自然の中でできる作業はとても気持ちが良い」と農業の魅力を語る森脇さん。しかし、近年そんな森脇さんをはじめ、この地域の人々を悩ませる問題が起こっていたのです。

農家が頭を抱える原因は

川本町では近年、野生のニホンザルが多数出没し、せっかく育てた農作物が食い荒らされるという被害が多発。昨年度はサルの捕獲数が過去最多となり、事態はどんどん深刻化していきました。森脇さんも同様に、一生懸命作った作物を食べられてしまい、囲い柵やネットを張るなど、様々な対策を施してきました。それにかかる労力や費用はかなり大きく、このままでは野菜の生産量が減少することはもちろん、被害に遭った農家の生産意欲が減退していくことも懸念される状況でした。

川本が町全体で取り組む「ピーマン大作戦」

そんな中、園芸組合の会長である森脇さんに、JAの営農指導員から「川本でピーマンをもっと作ってみませんか」と提案を持ちかけられたのです。「ピーマン?何故今更?」と半信半疑でしたが、よくよく聞くと、白ネギやナス・スイートコーンなどの野菜はサルの被害を受ける一方で、ピーマンだけは食べられなかったという声が多数あったこと。また、市場からもう少し出荷数を増やして欲しいという要望があったこと。更に、実が軽く、高齢者や女性でも作業がしやすいという理由からでした。鳥獣対策と言えば生産者が補助金を申請して、自身でネット張りなどの作業をするのが当たり前でしたが、「行政も一緒になってみんなでピーマンを川本の特産にしていくという活動は喜ばしい」と森脇さんは、この取り組みに賛同。昨年度より「ピーマン大作戦」と称し、園芸組合と共に女性部や青年連盟、町、JAが一つになって生産拡大に向け活動をスタートさせました。

町営バスで「ピーマン大作戦」

「ピーマン大作戦」の一環としてメディアでも注目されているのが町営のバスを活用して集荷する貨客混載事業。免許を返納して運転ができないなどの高齢農家が多い地域だからこそ、出荷にかかる労力を減らそうと、町内2ヶ所のバス停で生産者がピーマンの箱を積み、最終地点でJA職員が降ろすという仕組み。県内初の試みで、7月からの本格始動に向けシミュレーションを行なったところ、雨の日や、一人が数箱出荷する際にはどうやってバス停まで運ぶかなど、いくつかの課題も見えてきました。立ち会った森脇さんは「本格始動したらもっと課題は出てくるはず」と今後に向けた対策を検討し、皆で更なる解決方法を模索しています。

江川太鼓で町を支える

ピーマンで町を盛り上げる森脇さんですが、元々音楽が好きだったこともあり、川本町の伝統芸能「江川太鼓」にも長年携わり町を支えています。江川太鼓は、昭和47年に起きた豪雨災害の際、壊滅的な被害を受けた町の復興を願って結成された団体で、国内はもとより海外での公演も実施しています。森脇さんは結成当初からのメンバーとして活躍し、長年会長も務めておられました。今では、若い人にも受け継いでもらおうと地元の小・中学生に教えるワークショップを続けるメンバーを見守っています。その他にも週1回尺八の練習にも参加するなど、趣味でも地域の人との関わりを楽しんでいます。

町に元気を取り戻すために!

森脇さんはこの取り組みを通して、川本町のピーマンの生産量を増やすのはもちろん、生産者同士の連携が生まれることに期待を寄せています。「仲間ができれば、一緒になって問題点を話し合ったり相談できたりと、メリットがたくさんある。生産者が増えれば地域も盛り上がり、空気も変わる」と熱く語る森脇さん。そして、まだまだ元気に農業を続けたい方々をサポートし"歳をとっても働ける"というモデルを作っていきたいとの思いも。この「ピーマン大作戦」も「江川太鼓」も、どちらも川本の町を元気にするために始めた活動です。「周りが動いてくれているので、じっとしているわけにはいきません」と地域のために意欲的に活動を続ける森脇さんでした。



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