つながるコラム「絆」 vol.38 安来市・夏秋いちご

やすぎ地区本部

1年中いちごが採れる安来を目指して

安来市・夏秋いちご

やすぎ地区本部 
上廻 達矢さん

安来市の山間地に位置する比田地区で農業を営む上廻さん。主にほうれん草や小松菜、ナス、ピーマンなどの野菜を中心に栽培し、農業を始めて今年で24年目を迎えます。
そんな上廻さんが5年前に出会ったのが「夏秋いちご」。元々、安来市は島根県内でも有数ないちごの産地で知られており、地域をあげていちごの生産をバックアップしている地域です。
市内の平地で栽培される一般的ないちごは11月から5月末までの出荷で、「1年中いちごが採れる安来」を目指してJAや自治体が動き出したのが始まりです。夏秋いちごは6月〜11月まで出荷できるので、組み合わせるとちょうど年間を通して安来のいちごを流通させることができます。作るには標高が高くて涼しい場所が適しているということで、市内では比田地区がその条件に当てはまりました。そこで抜擢されたのが上廻さんの農園でした。担当者の熱い思いを受け止めた上廻さん。当時、上廻さんの農園には研修生が5人いて、人手があったことも栽培を決断した理由の一つでした。上廻さんが夏秋いちごを栽培し始めたことで、「1年中いちごが採れる安来」が実現しました。

夏秋いちごとは?「甘酸っぱい!?」

夏秋いちごと聞いても、あまり馴染みがないという方が多いかもしれません。それもそのはず、冬・春の一般的ないちごほどスーパーなどに出回ることはなく、主にケーキ屋などの製菓店に直接販売されることが多いのです。夏の間、製菓店では多くの需要があり、夏秋いちごはショートケーキにとって欠かせない存在となっています。今までは、外国産の夏秋いちごが使用されていたこともありましたが、外国産はケーキにとって大きすぎること、糖度が低すぎること、さらに安全性の面からも国産の方が注目されるようになりました。
夏秋いちごの特徴は、なんと言っても「酸っぱさ」。糖度は10度を超えているので甘さはありますが、普通のいちごに比べるとやはり酸味が強いという印象。しかし、ケーキの甘さと混ざると、いちごの風味がちょうど良く口に広がります。また、日持ちがするというメリットもあります。ほとんどの出荷先は製菓店ですが、稀に小さいパックに詰めて松江市などのスーパーに並ぶことも。ただ、普通のいちごを想像している人にとってはあまりの酸っぱさに驚かれるかもしれないので、必ず「甘酸っぱい」というポップを付けるようにしているそうです。

必要な時期に必要とする人たちに届けたい

1年目は研修生と共に勉強しながら育てる日々で、上廻さんにとっては何もかも初めての経験でした。最初は「すずあかね」という品種から栽培を始めました。しかし、一般的ないちごの品種に比べると草丈は低く、収量も少なかったので育て方はこれで合っているのかと不安に思ったことも。さらに昨年の夏は異常な暑さに加え、病気や虫にやられてしまいとても大変な思いをしました。
それを踏まえて、今年は定植の時期や育て方を見直していきました。また、他の品種も試してみようと思い、ちょうど「夏の輝(かがやき)」という品種を作っておられる農家さんがおられたので、苗を分けてもらい今年から新しく植えてみたそうです。この品種は「すずあかね」に比べ収量が多く、手応えも感じられます。ただ、上廻さん曰く「結局、最初に育てていた「すずあかね」は草丈が大きくならない品種だったけれど、全国No1のシェアを誇るほど実がしっかりしていて良かったんです。あと、やっぱり日持ちすることが選ばれる理由なんじゃないですかね」とのこと。どの品種にも良いところ、悪いところがあり、それを見極めることも重要だと語る上廻さん。
そして、上廻さんが大事にしているのは、何よりもこの夏秋いちごを欲しいと言って買ってくれる人たちのこと。製菓店の需要が高まる初秋の時期にたくさん出荷できるよう、定植の時期をずらしてみたり、新しい品種を試したりと、どの品種がベストなのか常に考えながら挑戦を続けています。

夏秋いちごは喜びの連続

上廻さんにとっていちごは他の作物とは違い、たくさんの喜びを感じることのできる特別な存在であると言います。草丈が大きくなった時の喜び、花がたくさん咲いた時の喜び、実をいっぱい付けた時の喜び。その時その時の変化が心を満たしてくれるそうです。そして、一度収穫した後も再び実を付け赤くなる瞬間がとてもワクワクするのだとか。そうやって、何度も喜びを感じることのできる夏秋いちご。元々生き物が好きで、他の作物にしても成長していく過程を見守ることが何よりも嬉しいそうです。

「農業は自分にとってライフワーク」と言い切る上廻さん。将来的には、夏秋いちごをやってみたいという就農者に譲ることも視野に入れ、その際はできる限り支援するために、現在土台作りをきちんとしているところだそうです。
決して楽しいことばかりではないけど、夢のある仕事であることは間違いないので、全てを伝えていきたいと、若者への期待を胸にその日が来るのを待っています。

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