つながるコラム「絆」 vol.62 益田市美都町・ 澄川晋二さん

西いわみ地区本部

新たな視点から挑戦する農業

澄川晋二さん(66歳)

西いわみ地区本部

町をあげて取り組むユズ栽培

島根県西部に位置する益田市美都町。豊かな自然に恵まれ、多種多様な農産物が作られています。ユズはその中でも代表的な存在。昭和50年代から奨励作物として町全体で作られるようになりました。山間地でも育てやすいため、それまで栽培が盛んだった養蚕用の桑や葉たばこからユズに転作した農家も多かったそうです。

同町の生産量は年間約160トン(搾汁用の出荷)。初秋の9月ごろの青玉は香りと酸味が鮮やかで、ユズ胡椒などの加工用として出荷されます。晩秋には徐々に色づいて黄玉になり、みずみずしさが増してまろやかな香りに。青果用、ポン酢やジュース、お菓子などの加工用として出荷されています。


父が作りあげたユズ園を受け継ぐ

澄川家がユズ栽培を始めたのはお父さんの代。昭和53年のことでした。農作業を手伝いながら一般企業で会社員として働いてきた澄川さん。平成29年の定年退職を機に継承就農しました。現在は65アールの圃場に約650本の果樹があり、年間生産量は22トン。その多くが搾汁用ですが、近隣の温泉施設では冬の風物詩「ユズ風呂」にも使われています。また、松江市の老舗和菓子店の柚餅子の材料として年間8000個を出荷。澄川さんは「製菓用は形のきれいな実が求められるので、病害虫の予防や選果など非常に気を使います。父の代からお付き合いがありますし、信頼を第一に誠実に対応しています」と話します。近年はユズのオーナー制度も実施。県外在住のオーナーにユズの実や加工品などを年4回送り、美都ブランドのユズの魅力を発信しています。

鋭いトゲと格闘し続ける一年

日照条件を選ばず暑さや寒さにも強いユズですが、質の良い実を収穫するには、こまめな手入れが必要。害虫や病気を防ぐため4月と6月に消毒をし、下草刈りは春から収穫期の秋まで続きます。樹高が高過ぎると作業がしにくくなり、また葉が密集すると病気が発生しやすくなるため、剪定も定期的に実施。トゲが生える木の中に分け入って不要な枝葉を取り除きます。

「ユズ栽培はトゲとの戦いです」と澄川さん。ユズのトゲは大きい上に鋭く、薄い軍手や衣類、時にはゴム長靴を貫通するほど。作業には厚手の長手袋と作業服、ヘルメット、ゴーグルが欠かせません。長靴の底には鉄板のインソールを仕込んでいます。それでもトゲが刺さることは頻繁にあり、剪定時も収穫時も生傷が絶えません。苦労話をしながらも「名誉の負傷ですよ」と言う澄川さんの表情は明るく、仕事への誇りが滲みます。


リフレッシュは「磯釣り」

澄川さんのリフレッシュ方法は磯釣り。釣果は自らさばいて家族にふるまいます。「メジナやイサキを塩焼きにすると最高にうまい。お酒も進みます」と笑顔の澄川さん。手塩にかけたユズを搾って垂らすとおいしさが倍増するのだとか。至福の時を味わっています。

美都のユズ栽培を希望あるものに

農作業を手伝うのは息子さんファミリー。「皆でワイワイ作業するのは楽しいですね。中学生になる孫たちも収穫に参加してくれます」と嬉しそうに話します。澄川さんのユズ栽培は息子さんたち次世代に受け継がれつつありますが、美都町では高齢になり離農する人も増えているそうです。「美都町のユズ農家は、私のような定年退職後の継承就農者が多い。ユズだけで生活していくのは難しく、現役世代の農家も新規就農者も少ないのが現状。先細りにならないようにしなければと思います」と澄川さん。「搾汁後に残ってしまう実や皮の利活用を広げて需要を伸ばしたり、健康・美容効果をアピールするなど、価値を高める工夫が必要。ユズ栽培の魅了を地域ぐるみで生み出していけるといいですね」と美都町の特産を守るため、澄川さんの挑戦は続きます。



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