つながるコラム「絆」 vol.29 大田市・あか穂もち

石見銀山地区本部

粘りが強く旨味がある幻のもち

大田市・あか穂もち

石見銀山地区本部 
黒谷明司さん

今回のピックアップはあか穂もち。大田市であか穂もち米作りに取り組む黒谷明司さんを取材してきました。あか穂もちはその名の通り穂が赤く、加工されたもちは白いですが、普通のもちと比べて粘りが強く旨味があると言われています。江戸時代から三瓶地域ではあか穂もち米が作られていましたが、時代が流れていくにつれ生産農家は減っていきました。そんな時、このもちを大田市の特産にしたいと考えたJAから依頼され、数軒の農家が本格的な契約栽培を始めました。

苦労が多いあか穂もち米栽培

あか穂もち米はこの地域の在来種であり全国的にも珍しい品種。稲の背丈が高く、稲刈りの際にはコンバインの後ろのカッター部に詰まりやすいという難点があります。その度に機械を止めては詰まった稲を取り除き、また再開する...という作業を繰り返し行う必要があり、また、この季節は台風が多い時期であり、刈り取るタイミングも重要。
黒谷さん「雨風が強い日が続くと稲は倒れやすく、田んぼに溜まった雨水に穂がつくと芽が出てしまいます。そうすると、品質が低下し収穫量も減ってしまうので、その前にすべて刈り取らないといけない。」 このように、倒伏しやすく穂先が絡み合って収穫も大変なもち米なので非常に手間の掛かる作業が多く、生産者の高齢化と共に、再び栽培農家は減っていきました。

そこまでして作り続ける本当の理由

今では在来種を育てているのは黒谷さんただ一人。
それでも作り続ける本当の理由は、"黒谷さんが誰よりもこのもちのファンである"から。毎年、お正月から3月まで毎朝欠かさず4つは食べるといい、その美味しさを一度知ってしまったら他のもちでは物足りなさも感じるくらいです。「シンプルに醤油だしに鰹節とのりをかけるだけの雑煮もちが一番美味しい」と黒谷さん。このもちが大好きで、いつまでも食べたいという自身の想いも栽培を続ける原動力となっています。



しかし、年齢と共に体力的にもきつくなってきた現在は、「正直なところ、そろそろ辞めようかなと思ったり。」と本音がポツリと出てしまうほど。 黒谷さん「でも、今は自分一人なので辞めるわけにはいかないし、このあか穂もちを絶やしたくないという気持ちがあります。体力と機械が続く限りは、頑張らないといけないなと。」笑いながらも力強く語っておられました。「やっぱりこのもちじゃないとだめ。」と言う周りの人たちや、もっと多くの人たちに食べてもらうためにも、この味わい深く美味しいあか穂もちを後世に残すべく、黒谷さんは日々努力を続けています。

三瓶のあか穂もちは、寒暖差が大きい高地で育てているということもあり、粘りが強く、味を強く感じることができます。また、きめが細かく、煮崩れしにくいことから、鍋物、すき焼き、雑煮、ぜんざいなどに最適です。焼いて食べる場合は、外はパリッ、中はもちもちで、もち本来の旨みを楽しむことができます。ぜひ、一度お試しください。



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